義肢装具コラム

カナダの義肢装具士の仕事(第3回目『カナダで義肢装具士になるには』)

カナダの義肢装具士の仕事(第3回目『カナダで義肢装具士になるには』)

カナダの義肢装具士の仕事(第3回目『カナダで義肢装具士になるには』)

こんにちは。義肢装具士の鈴木です。このコラムでは、カナダでの勤務経験を元に、何か役立つ情報を提供していきたいと思っています。

今回は、カナダで義肢装具士になる方法について書きたいと思います。

海外で働いてみたいと思っている日本の義肢装具士の皆さんや、義肢装具士という仕事に興味のある学生さん、北米の義肢装具士の教育制度に興味がある方などにとって、何かの参考になれば嬉しいです。

 

養成校

日本で義肢装具士になるためには3~4年過程の養成校を卒業する必要がありますが、これはカナダも同様。

カナダでは、義肢装具の製作技術を学ぶテクニシャン過程が2年間、義肢装具士となるための過程が2年間あり、それぞれ別のカリキュラムになっています。

 

カナダ(英語圏)には、義肢装具士になるための養成学校が2校あります。

1つはトロントにあるGeorge Brown College 、もう1つはバンクーバーにあるBritish Columbia Institute of Technologyです。(フランス語圏のケベック州にも養成校がありますが、カリキュラムや制度が大きく異なるため今回は割愛)

 

養成校へ入学するための条件は、義肢装具に関連する分野の専攻(運動学、理学療法など)を大学で学び、学士を所持していることです。日本の養成校は高卒で入学できるので、この点は大きく異なります。

 

ちなみに、日本の27倍の国土面積を持つカナダに、たった2校しか養成校がない上、各学校の生徒受け入れ人数が非常に少ないため、これらの養成校への入学試験は毎年、激戦!!です。

 

そのため、入学には学位の他、テクニシャン過程を卒業していることやボランティアや勤務経験など何かしらの現場での経験や知識がないと、入学は実質不可能な状況となっています。

義肢装具のことを学ぶ学校に入るために、あらかじめ義肢装具の知識や経験がないといけないというのは何だかおかしな話なのですが、倍率が高すぎるためにこうなってしまっているとのこと。

 

私の職場にも義肢装具士を目指す沢山の学生がボランティアやアルバイトに来ていましたが、中には年に一度の入試に3度落ち、次の合格を目指し励んでいる子や、2回の受験後に諦めて大学院に進む子もいました。

 

このような厳しい受験競争に加え、言語の壁もある(多くの)日本人の場合、カナダの義肢装具士養成校へ入るのはかなりハードルが高いと言えます。

 

…では、装具士としてカナダの国家資格を取得できた私は、この厳しい戦いを乗り越えたのか、というと、実は全然そんなことはありません。

 

海外の養成校を卒業した者のための制度

移民大国カナダには、上記の養成校を卒業する他に、海外の養成校を卒業した者のための制度が整えられています。私はカナダの学校へ行く代わりに、この制度を利用しました。日本で義肢装具士として働いていた私の場合、卒業した日本の養成校からの卒業証明や成績証明書などをカナダの移民向け教育審査機関に提出することで、『カナダの養成校と同等の教育を受けている』という認定を受けることができたためです。

日本の専門学校であればカリキュラムはどこも似たり寄ったりのはずなので、日本の義肢装具士なら誰でも認定されるとは思います。正確には認定の基準は不明なので、審査を受けてみないと分かりませんが。

 

出身国によって、教育がカナダの水準と著しく異なると判断されると、認定をもらうことができません。その場合はカナダの養成校(またはカナダが「同等の水準」と認める他国の養成校)に入学し、勉強し直す必要があります。その点、日本で教育を受けていた私は幸運でした。

 

さらに、カナダの公用語である英語またはフランス語の語学力を証明するため、IELTS等の語学試験の得点を提出する必要がある他、後述するレジデント(研修生)になるための試験に合格する必要があります。この試験は筆記試験で、装具士を目指すなら装具、義肢士を目指すなら義肢の基礎的な知識を問われ、現場で働くための最低限の知識が備わっているかを確認されます。

 

レジデント(研修生)制度

カナダの養成校を卒業した者も、海外の養成校を卒業した者も、カナダの義肢士/装具士の国家資格を取得するには、レジデント(研修生)としての勤務が必要です。例え、日本やその他の国で何十年の勤務経験を持っていても、カナダの国家資格を得るためにはこのレジデント期間が必須となっています。

研修期間は各専門(装具士/義肢士)ごとに2年弱(3450時間)以上となっており、この期間は民間の会社や病院にて、資格を有する義肢士/装具士の指導の元で働きます。もちろん、レジデントとしての給料が支払われますし、有資格者の指導の下で働くことと国家試験に向け勉強や実技練習などが入ることを除けば、業務内容は資格を持っている人と変わりません。また、レジテント期間に自分の担当の患者さんなども増えていくので、資格取得後も継続して同じ場所で働く人も多くいます。

 

もちろん大前提として、日本人がレジデントになるためには、カナダでの就労を許可する何かしらのビザを所有している必要があります。

国家試験

カナダの義肢士/装具士になるための国家試験は、OPC(Orthotics Prosthetics Canada)という組織が管轄しています。

 

筆記試験と実技試験の2つの試験があり、筆記試験に受かると実技試験を受ける権利がもらえます。筆記試験はレジテント期間中いつでも受けることができますが、実技試験は3450時間のレジデントとしての勤務を終了していないと受験が認められません。また、実技試験の受験時点で、カナダの永住権または市民権を得ている必要があります。

 

日本の義肢装具士の国家試験には実技試験がなかったこともあり、試験形式に慣れていなかったり、語学の壁もあったり、そもそも出題される内容が日本とは異なり一から1人で勉強をし直す必要があったりと、この国家試験にはかなり苦戦しました。とても辛い試験ではありましたが、受かった今から考えれば、とても学びも多く、実践的/実用的な試験でしたし、日本の義肢装具分野の教育現場でも参考にできることがあるように感じたので、この試験については別回で詳しくご紹介できたらと思っています。

 

継続教育/免許は5年更新制

さて、無事にレジテント期間を終え国家試験に合格すると、カナダの義肢士または装具士の免許が与えられます。

ただしこの免許は5年ごとの更新制となっており、学会参加、研究発表、ボランティア参加などによる一定の単位取得をしていないと、免許が剥奪される可能性があります。日々進歩していく医学やテクノロジーに取り残されないよう、専門職としての学びを継続していくことが求められているということですね。

以上、カナダで義肢装具士の免許取得の流れでした。

ちなみにカナダは義肢士と装具士の資格が完全に別なので、もし「義肢装具士」として働きたい場合は、上の手順(レジデント2年→国家試験)を再度行う必要があります。なので私の場合、日本では義肢装具士の免許を持っていますが、カナダでは現時点では装具士免許のみ所有しています。

 

[カナダの義肢装具士の仕事コラム]

カナダの義肢装具士の仕事(第1回目『日本との違い』)

カナダの義肢装具士の仕事(第2回目『働きやすさ』)


about author
鈴木悠仁子(Suzuki Yuniko)
・義肢装具士
・やってきたこと:バックパッカー旅、ボランティア(装具士としてハイチへ派遣)
・これからやってみたいこと:プラスチックゴミを出さない生活(義肢装具の世界では難題ですが、まずは日常生活から…!)、開発途上国でのPO分野への貢献