義肢装具コラム

カナダの義肢装具士の仕事(第2回目『働きやすさ』)

カナダの義肢装具士の仕事(第2回目『働きやすさ』)

カナダの義肢装具士の仕事(第2回目『働きやすさ』)

こんにちは。義肢装具士の鈴木です。

このコラムを通じて、カナダで3年半ほど装具士として働いた経験からの学びを、日本のみなさんにシェアしていきたいと思っています。

※あくまで私の勤務先での経験やその時耳にした情報と私の主観を元に書いていますので、これがカナダの全てではないことを予めご承知おきください。

私が働いていたのは、カナダで最大の都市トロント(人口:約620万人)にある家族経営の会社(装具クリニック)です。

従業員数は、装具士4名、ペドーシスト(足専門の装具士)が1名、製作者(テクニシャン)5~7名、受付3名、事務2名、その他学生のインターンやボランティア2名ほどの、計20名弱でした。これはPOの個人の会社としてはカナダではかなり大きな規模と言えます(義肢装具の製作施設を有する大きな病院の場合は、これよりも義肢士/装具士の数が多い)。

今回は、カナダでの義肢装具士としての労働環境や、働きやすいと感じた部分について、お話ししたいと思います。

働きやすさ①スケジュールをコントロールしやすい

前回のコラムでも触れたとおり、カナダの義肢装具の会社は独自のクリニックを持ち、患者さんは予約を取ってクリニックを訪れます。そのため、医師の診察やリハビリの予定に合わせて義肢装具士が病院に出向く日本のスタイルとは違い、患者さんの予約スケジュールを義肢装具士自身が管理することができます。

つまり例えば、難しい疾患の患者さんの予約が連続しないようにしたり、定時1時間前以降は予約を入れないようにしたりといった細かなスケジュール調整を行うことができます。

 

働きやすさ②休暇が取りやすい

休暇を取りたい時は、その日程に担当の患者さんの予約を入れなければ良いので、事前に予定が分かれば長い旅行も可能です。私は毎年、2週間の旅行を1回、1週間程度の旅行を2回、その他にも平日に休みを取ってキャンプに出かけたりと、かなり自由に休暇を取らせてもらっていました。なかには1カ月程の休暇を取る同僚もいるなど休暇に関してはかなりフレキシブルでしたし、みんなが休みをどんどん取るので、自分が休むことで同僚へ負担をかけることにも罪悪感はあまりなく、自然にお互いをカバーし合うことができていたと思います。

また、自分が担当する患者さんを必要に応じて他の装具士へいつでも引き継げるよう、患者さんの情報や調整の内容、会話内容などを詳細にカルテに記録するという作業も徹底されていました。

働きやすさ③患者さんに予約の変更をお願いできる

これは文化の違いが大きいと思いますが、こちらの状況によって患者さんに連絡し予約変更してもらうということがカナダでは日常的にありました。「会社の都合で一度確約した患者さんの予約を変えるなんて、よっぽどのことがない限りあり得ない」と、日本人の多くが思うのではないでしょうか。私も始めはそう思っていました。

しかし実際には、患者さんに事情を説明しスムーズに変更ができていましたし、そのせいで苦情が来ることもありませんでした。これは装具クリニックに限られた話ではなく、私が通っていた歯科医院から「予約日に先生が学会に行くことしたので日程変更お願いします」と連絡が来たこともあります。

日本では‟お客様は神様”などと言われ、サービスの質を何よりも重要視する傾向があります。それは消費者側にとって非常に便利で有難いのですが、その一方で、質を保つために夜遅くまで働いたり、理不尽な要求にも応えたりと、労働者の権利を奪ってしまっている状況が多くあるのではないでしょうか。

‟神様“ではなくて、お客さん(患者さん)も労働者も、互いを‟人間”として尊重し合えれば、日本ももっと、誰もが働きやすい社会になっていくのではと思います。

 

働きやすさ④義肢士/装具士の社会的地位の高さ

カナダでのPOとしての働きやすさの大きな要素の1つで忘れてはならないのが、POの社会的な地位が高いということです。

前回のコラムでも記述しましたが、日本と比べてカナダではPOが医療チーム/リハビリチームの中の専門家として確立した地位と信頼を持っており、義肢・装具に関することは全て医師やチームから義肢士/装具士に一任され、意見が尊重されるので、自分の正しいと思う方針で義肢・装具の設計、製作ができることが、やりがいやモチベーションの向上に繋がっていると感じました。また、社会的地位が高い=給与が日本より高いことも、義肢装具士としての働きやすさを高めている重要な要素の一つであると言えます。

 

働きやすさ⑤職場には育児中のパパママがたくさん!

装具士にも、製作者にも、事務スタッフにも、小さな子どもを育てている人が多数いました。働き方も時短勤務やパートタイム勤務、土曜勤務など、個々の事情によってさまざまで、子どもの成長に応じて勤務形態の変更にも柔軟に対応していて、中には学校がお休みの日に子どもたちを職場に連れてくるスタッフもいました。もちろん産休や育休もしっかり取ることができます。

子どものお迎えのために時短勤務をしている男性スタッフがいたり、フルタイムで働くシングルマザーがいたり、養子を受け入れるため休暇を取る人がいたり(養子を迎える時にも育児休暇を取ることができます)と、子育てだけをとっても多様性にあふれる職場でした。みんな当たり前に「子どもの運動会だから」「バレーボールの試合があるから」と気軽に半日休暇を取ったり、遅れて出勤したりしていたのも、日本ではなかなか見ない光景のように思います。

 

働きやすさ⑥ハラスメントや差別に関する規定が明示されている

州政府からの指示により、定期的にハラスメントや差別に関するミーティングが職場で開かれます。私の職場では1年に1回、勉強会のような形でお昼の時間に話し合いを行ない、『何がハラスメント行為となるのか』といった定義を考えたり、様々な状況におけるハラスメントを想定した対処方法を話し合ったり、実際に最近起こった出来事について共有し、対応策を考えたりしました。

仕事中に差別的、暴力的な発言があった場合などは、「業務を中断し、すぐにその場を離れて良いこと」、「電話越しの場合は電話を即座に電話を切って良いこと」など、スタッフ1人1人が安心して働ける環境を作るための細かいルールの確認があり、何かあった時には気軽に相談、報告できる雰囲気作りを心がけているようでした。

カナダは日本と比べて年齢や役職の違いによる上下関係が厳しくないこともあり、立場に関係なくオープンに話し合いができていたのも、働きやすい環境作りへの大切な要素になっていたように思います。

 

より多くの義肢装具士たちがもっとイキイキと働けるようになれば、さらなる技術やサービス向上、制度の改善、そして患者さんたちのQOLの向上へと繋がっていくと思っています。ここに述べたことはあくまでも個人の私見に過ぎませんが、何か少しでも改善に繋がるヒントがあれば嬉しいです。

カナダの義肢装具士の仕事(第1回目『日本との違い』へ


about author
鈴木悠仁子(Suzuki Yuniko)
・義肢装具士
・やってきたこと:バックパッカー旅、ボランティア(装具士としてハイチへ派遣)
・これからやってみたいこと:プラスチックゴミを出さない生活(義肢装具の世界では難題ですが、まずは日常生活から…!)、開発途上国でのPO分野への貢献