義肢装具コラム

足底装具を作る際靴選びに困ったことはありますか?

足底装具を作る際靴選びに困ったことはありますか?

足底装具を作る際靴選びに困ったことはありますか?

こんにちわ。Atelier Natural平岡製作所代表の義肢装具士の平岡です。

「病院で足底装具を処方された方からよくどんな靴を選べば良いのでしょうか?」とのご質問を頂きます。

靴はファッションやフォーマルな場面での商売道具のような側面があるので一概に足底装具との相性だけで決められるものではありませんが、装具の効果をより適切に引き出すという側面ではいくつかのポイントがあります。

足底装具とは靴の中に入れる中敷きの形をした物で、様々な症状の足のトラブルに対応する装具です。
この装具は靴の中に入れて使用者の足を支えるという性質上、製作した足底装具の性能を適切に引き出す為には靴選びがとても重要になります。

足のトラブルの発生メカニズム

足の病変は筋肉や骨の問題、神経の麻痺、末梢血管の障害など様々な要因が元になり発生していきます。なかでも大きな原因の一つが足の骨の変形により痛み等の問題が発生する物があります。

人間の足の骨は柔軟なアーチ構造をしており、その構造によって歩行時の衝撃吸収、体重の分散、凸凹した不整地への対応を可能にします。
その骨のアーチ構造がなんらかの理由で崩れた場合、衝撃の吸収が不十分になり圧力の分散のバランスが崩れる結果として各部に痛みや、胼胝、魚の目等の問題が発生します。

 

足底装具による足病変へのアプローチ

足底装具は主にその形状で崩れたアーチ構造を正常な足の骨の構造に戻し、普段圧がかかりにくい土踏まず等の広い面積に圧力分散を行い、特に痛みの発生している部分の除圧をすることを目的として作られます。

<圧力の分散>

足底装具の効果を引き出す5個のポイント

足底装具は足の底から人間の体重を支える様に使用するため適正な位置がずれると当然その効果も半減してしまいます。
様々な路面状態の道や階段を歩いたり、時に走ったりする中で靴の中で足底装具を適正な位置に固定し続けるためにはしっかり安定した靴が必要です。そのような靴選びのポイントを以下の5項目にまとめました。

<足底装具の効果を引き出す靴選びのポイント>

  1. 踵部分の素材がしっかりしている
  2. 靴底は踵から指の付け根までしっかり硬く、つま先は柔らかい
  3. 足の甲までしっかり覆うアッパー(甲革)のデザイン
  4. 靴底が広くアッパー(甲革)との境目がしっかり固定されているデザイン
  5. 少し余裕のあるサイズ選び

1.踵部分の素材がしっかりしている

踵は立っているときに一番体重が掛かり、歩行時には大きな衝撃を受ける部分です。靴の踵の部分にはカウンター(月型芯)と呼ばれる芯材が入っていて、このカウンターは歩行時の踵のブレを抑えて、踵を保護する役割があります。
靴の中で踵が動くと足と足底装具の位置関係がずれ、装具の効果を最大限引き出せない状態になります。この理由から踵の部分の芯材が踵を支えるのに十分な硬さのある靴を選びます。

2.靴底は踵から指の付け根までしっかり硬く、つま先は柔らかい

足底装具で足のアーチ形状を支えるために土台となる靴底はしっかりとした支えになる必要があります。
ただし歩行時に足のつま先は踏み返されるため、歩行の邪魔にならないためにもつま先部分は柔らかい必要があります。

曲がる部分と曲がらない部分が明確に分かれている物を選びます。なので、トレーニング用等の自由自在に靴底が曲がる靴などは足のアーチを支える足底版には不向きです。(但し状況によっては、糖尿病以外の外傷や先天的な問題で足指を欠損されている方などにはこのような自在に曲がる靴のほうが個人毎の欠損の形状に曲がるところが合い、履き心地が良い場合があるのですが、主題から外れる為ここでは割愛します。)

<曲がる、支える>

 

3.足の甲までしっかり覆うアッパー(甲革)のデザイン


靴のアッパー(甲革)のデザインはハイカットまでとは言いませんが、足の甲まで覆うデザインで、しっかりと足を包み込む為に紐靴か3本以上のマジックベルトの靴を選びます。足の甲全体までホールドすることで靴の中で足と足底装具の位置関係が適正な位置に固定され、常に最大限の効果を引き出せている状態になります。

また、ハイカットの靴は重く夏場暑いというデメリットもありますが、足首を強固に支えるので歩行の際足首が不安定に外反(内側に倒れる)様な方にはかなり有効です。

パンプスのように足の甲が大きく露出するようなローカットなデザインの靴では足の支えが不十分になり足底装具には不向きです。

<足の甲がオープンになるほどのローカットは不向き>

4.靴底の縁が立ち上がりアッパー(甲革)との境目が固定されているデザイン

踵付近の靴底の縁が立ち上がって靴のアッパー(甲革)の下部をカップ状に包み込む様なデザイン(シャーレンボーデン形状)の靴を選びます。

この靴底の縁の立ち上がりが無く、踵方向から見たときにくびれが在る靴だと歩行の度に踵がブレてしまいます。
より安定的に足を真っ直ぐ支える為には靴底と靴の甲革の間の動きが少なくなるデザインが必要です。

<下部をカップ状に包み込む様なデザイン(シャーレンボーデン形状)>

5.少し余裕のあるサイズ選び

靴のサイズは気持ちゆったり目で選んでください。足底装具は足底胼胝の痛みを軽減するためにクッション性を持たせたり、足アーチを支える為に土踏まずの部分を埋める為一番薄いつま先の部分でも3㎜~5㎜の厚さが必要です。

あまりタイトなサイズで選んでしまうと足底板装具を入れたときに下から押し上げられきつくなってしまう場合があります。

但し、もともとの靴の中敷きが取り外し可能で、クッション性に優れ5㎜位の厚みがある場合はジャストサイズで選んでください。

 

最後に

先にも書きましたが、今回ご紹介したのはあくまでも足底装具の効果を引き出すためのポイントです。靴はファッションでありフォーマルな場では仕事道具として欠かせないものです。けして常に足にやさしい靴を履いてくださいと言っているわけではありません。大切な勝負の時こそ足元を美しく見せる為の靴を履くために普段足を休め温存するように装具と適した靴で効果的に治療を続けていただければと願っています。

おまけ :足底装具を入れた靴の靴紐調整

足底装具を靴に入れると土踏まずの部分を下から持ち上げるので足の甲がきつく感じるようになる方もいらっしゃいます。靴ひもの調整の仕方だけでも履き心地がかなり改善されます。

具体的には足底装具によって押し上げられた足の甲など、一番辺りが強くなったところ付近だけ紐の調整で広く開くことです。フィッテングの細かい調整で履き心地を良くするだけではなく、均一な力で全体を包み込む様に引き締めることで足と足底装具の位置の固定もより強固になりますのでお試しください。

 

 

about author
平岡 敬悟(Hiraoka Hiranori)
・義肢装具士
Atelier Natural. 平岡製作所代表
・やってきたこと:フルコンタクト空手、油絵
・これからやってみたいこと:レザークラフト、水墨画、日本画